名前より先に触れた夜

本名をちゃんと聞いたのは、部屋に入ってからしばらく経ってからだった。先に知ったのは、隣に座った時の距離感とか、笑う時に少し伏せる目元とか、沈黙をごまかさない人だということ。順番なんて正しくなくていいのかもしれない。名前より先に、気配やぬくもりを知ってしまう夜がある。そういう不器用さが、妙に忘れられなくなる。

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